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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)11439号 判決 1967年1月26日

原告 山岡準治

被告 岡田長次 外一名

主文

被告両名は原告に対し各自金一六万〇、四一〇円及びこれに対する昭和四〇年八月五日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告両名の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

一、原告訴訟代理人は

主文同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

原告は

(一)  昭和四〇年六月二六日、被告両名から車名ダツトサン型式p三一二(通称ブルーバード)六三年型、普通乗用自動車一台(登録番号多五れ二七二五号、車台番号p三一二-三-五六八八二)(以下本件自動車と略称する。)を代金一五万円で買い受け即日被告両名にその代金を支払つた。

(二)  本件自動車には何らの負担も瑕疵もないものとして買い受けたところ、本件自動車には割賦売主である訴外日産自動車販売株式会社(以下日産自動車と略称する)に対し金一三万三、二〇〇円の末払(割賦)残代金並びにこれに対する延滞手数料金一万六、六五〇円、及び訴外東京都北多摩南部事務所に対し自動車税第一期分金一万〇、五〇〇円並びにこれに対する延滞金六〇円、以上合計金一六万〇、四一〇円の未払(割賦)残代金、未払税金等があつた。

(三)  このため昭和四〇年七月二日に前記南部事務所に自動車税、延滞金計一万〇、五六〇円、同年八月三日に訴外東京日産自動車に未払(割賦)残代金、延滞手数料計金一四万九、八五〇円、合計金一六万〇、四一〇円を支払うの余儀なきに至つた。

右金員は原告が本件自動車の所有権を保存するため自己の負担しない売主の債務のために出捐したのであるから被告両名に対し各自その償還を請求する。

(四)  なお予備的の請求として、仮に右償還請求権が認められないとしても、原告及び被告両名は昭和四〇年八月五日、東京都港区東新橋二丁目二番五号第一岩田ビル内訴外秋根久太事務所において、話し合いの結果被告両名は右金一六万〇、四一〇円の債務を負担することを承認し、連帯して原告に対し、同年八月一六日限り右金員を支払う旨の準消費貸借契約を締結した。

よつて原告は被告両名に対し各自右金一六万〇、四一〇円及びこれに対する売買契約締結の後である昭和四〇年八月五日以降完済に至るまで民事法定利率である年五分の割合による金員の支払いを求めるため本訴に及んだ。

と述べた。

立証<省略>

被告岡田長次訴訟代理人は

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

被告岡田が原告に対しその主張の本件自動車を売渡しかつその代金を受領した事実はいずれも否認する。原告は被告長谷川から右自動車を原告主張の金額で買い受けたもので、被告岡田は右売買につき、原告と被告長谷川を引き合わせたにすぎなかつた。

なお本件自動車につき未払残代金、未払税金が存在し原告が右未払残代金等を支払つた事実は知らない。

また原告主張の予備的請求原因事実のうち被告岡田が昭和四〇年八月五日原告に対し本件債務を承認して、相被告長谷川と連帯して支払うとの約定をしたことはなく被告岡田は右日時の前後を問わず一貫して本件債務の存在を否認しているものである。

と述べた。

立証<省略>

被告長谷川は適式の呼出をうけたにもかかわらず、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面をも提出しない。

理由

(一)  被告長谷川関係について

原告の主張事実は被告長谷川において民事訴訟法第一四〇条第三項、第一項本文によりすべて自白したものとみなすべく、右事実によれば原告の本訴請求は正当であるからこれを認容すべきである。

(二)  被告岡田関係について

(1)  まず、本件自動車の売買契約について原告主張のごとく被告長谷川のほか、被告岡田も売主の一人であつたか否かについて判断する。

成立に争いのない乙第七号証、被告岡田長次本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第四号証の一、二の一、二 証人宮崎三郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第六号証、証人宮崎三郎の証言(後記信用しない部分を除く)原告山岡準治本人尋問の結果及び被告岡田長次本人尋問の結果(後記信用しない部分を除く)を総合すれば、

被告岡田は自己の勤務する訴外日本計装株式会社(以下日本計装と略称する)の相被告長谷川に対する約束手形金債権金八万三、九〇五円を同被告が訴外日産自動車から買い受けていた本件自動車を売却した代金により回収しようと企図してこれを引渡させかつ同被告をして売却処分の権限を委任させていたこと、被告岡田は知人であり原告の同僚であつた訴外新垣一雄に本件自動車の売却の斡旋を依頼したところ、同人が被告岡田のため売却方に奔走した結果同被告が訴外新垣を通じ原告に対し本件自動車を割賦代金を完済した何ら負担附でないものとして代金一五万円前後にて売渡すべきことを申込み原告がこれを承諾したこと、右売買契約にあたつては、原告並びに被告岡田は本件自動車については原告主張の割賦代金の未払金滞納税金の存したことは予期していなかつたこと、原告と被告両名及び訴外新垣が昭和四〇年六月二六日訴外日本計装の事務所に落ち合い原告は右新垣の立会のもとで事実上の売主である被告岡田に対し本件自動車の買受代金一四万四、四三〇円を手交して支払い、被告岡田は本件自動車の使用名義人である被告長谷川に要請し、同被告をして原告宛の被告長谷川名義の右代金の受領証を作成させ原告にこれを交付したこと、被告岡田は原告から受領した本件自動車の代金の内から直ちに訴外日本計装の被告長谷川に対する前記手形金債権に相当する金員を控除して債権収取の実効を挙げ、同被告に残余金を手交したことをそれぞれ認めることができる。右認定に反する成立に争いのない乙第一、第二号証の各一の記載内容、証人宮崎三郎の証言及び被告岡田長次本人尋問の結果は前記の諸証拠と対比して信用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠は存しない。

以上の判示事実によれば、本件自動車の売買契約は被告岡田から訴外新垣を通じて原告に対して申込がなされ、原告において実質上の売主は被告岡田と信じてこれを承諾して成立したものであるが被告長谷川は本件自動車の使用名義人として売主の一人に加わり被告岡田とともに本件売買契約の共同売主となつたものと解するを相当とする。

(2)  次ぎに原告主張の償還請求権の存否について判断する。

原告山岡準治本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三ないし第五号証、原告山岡準治本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、

本件自動車は被告長谷川が訴外日産自動車から所有権留保附割賦売買契約にて買受けたもので、本件自動車には原告主張の未払割賦残代金、未払税金等合計金一六万〇、四一〇円が存在したこと、本件割賦売買契約の場合も、一般原則に従い割賦買主たる被告長谷川は本件自動車の占有権はもちろん実質的にはその所有権の移転を受けたが同時に割賦売主たる訴外日産自動車は本件自動車に対して所有権留保の特約をして代金債権についてはその完済されるに至るまで譲渡担保あるいは抵当権の設定を受けた状態に準じた効力と追及力によつて保障され、割賦買主の代金債務の不履行によつて割賦売買契約を解除したときは遡及的に買主の権利を喪失させ得たこと、原告は本件自動車の所有権を追奪される危険を防止するため被告長谷川の支払うべき被担保債務である割賦残代金未払税金等金一六万〇、四一〇円の支払を余儀なくせられたことを認めることができ、右認定を覆すに足る証拠は存しない。

およそ自動車割賦売買契約においては、抵当権設定によるか、または所有権留保によるかの形で債権担保の措置がとられており、現在後者によるものが前者によるよりも遙かに多いといわれている。すなわち、所有権留保の場合は、自動車の所有権は、割賦売主に留保され割賦買主のために対抗要件たる所有権移転の登録手続をとらず、割賦買主において代金債務を完済したときに所有権を取得することになるが、単に代金完済により所有権を取得し得るとの期待権を有する地位にあるにすぎないものでなく、あくまでも残代金債務の弁済を建前として本来自動車の返還を予定せず、抵当権設定の場合と同様実質は担保であつて自動車の所有権を取得した割賦買主が直ちにこれを割賦売主に譲渡担保として差し入れたと同様の関係にあるものと解し得る。そこで、登記登録を経由しない本件のごとき所有権留保の場合も、対抗要件を具えた抵当権設定のときと同様に担保物件としての機能を果しているのであるから、担保的権利による制限がある場合に該当するものとして売主の担保責任に関する民法第五六七条の規定を類推適用するを相当とする。

しかして債務不履行は債権を侵害する行為にして共同売主の債務不履行の結果、同一の損害賠償義務に転化したときはこれに共同不法行為の規定の類推適用を認め、共同売主の買主に対する契約責任も、それぞれの立場において各自がその全部につき共同して負担すべく、これを不真正連帯債務と解すべきである。

そうだとすれば買主である原告が前記認定のごとくその所有権を保存するため割賦売主である訴外日産自動車並びに訴外東京都北多摩南部事務所に支払つた金一六万〇、四一〇円は、民法第五六七条第二項を類推適用し、買主の善意、悪意を問わず本件自動車の共同売主である被告両名が各自原告の右出捐に対しこれを償還すべき義務を負うものといわざるを得ない。

よつて原告の被告両名に対し各自金一六万〇、四一〇円及びこれに対し昭和四〇年八月五日以降右完済に至るまで民事法定利率である年五分の割合による遅延損害金の支払を求める主位的本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条第一項本文を、仮執行につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石原辰次郎)

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